リビア情勢-保護する責任を根拠とした軍事介入の是非-

会議設定

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議題:リビア情勢 -保護する責任を根拠とした軍事介入の是非― 


議場:安全保障理事会第6498会合(安保理決議1973) 


使用言語:日本語/日本語/日本語(公式/非公式/決議) 


設定日時:2011年3月12日~(終了日時は会議進行次第で変動する) 


募集人数:30~35名 

フロント

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会議監督: 

伊藤駿介(明治大学・4年・四ツ谷研究会・神メン)


副会議監督: 

何 山(慶應義塾大学・3年・日吉研究会・老メン)

米田岳広(東京大学・4年・駒場研究会・神メン)


議長:

坪井宏樹(国際基督教大学・3年・四ツ谷研究会・神メン)


秘書官: 

小林大晟(上智大学・4年・四ツ谷研究会・神メン)

坂本知陽(同志社大学・4年・京都研究会・神メン) 

濵田歩見(上智大学・4年・四ツ谷研究会・神メン) 

水野萌子(上智大学・4年・四ツ谷研究会・神メン) 

会議テーマ

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「敗北を抱きしめて」


このコンセプトを採用した理由は2点ある。まず1点目は、現在から見るとリビアへの介入が必ずしも成功していない、ということだ。対リビア介入を決定した安保理決議1973が採択された2011年3月17日時点で、果たして現在のようなリビアの泥沼は予想できていたのだろうか。私にはそうは思えない。さらに振り返れば、2001年に保護する責任が産声を上げた時、このような結末は望まれていなかったに違いない。保護する責任という概念は実際にはより状況を混乱させただけではなかったのか。2点目は、自由や民主主義という概念が絶対的な価値観ではないのかもしれない、という疑念が生じたことだ。現在我々が生きている2021年において、両者の価値を疑問視させる事件が多数発生したことは記憶に新しいところだろう(奇しくも8月15日にアメリカはアフガニスタンで「敗北」を迎えた)。翻って見ればアラブの春、そしてリビア内戦は自由と民主主義を求めて闘われたものであったし、冷戦終結後の世界ではこれらを普遍化しようとする動きが進んでいた。しかし、果たして自由と民主主義は命を懸けてでも獲得しなければならないものなのだろうか。冷戦終結から30年余りを経た現在、それらはむしろ「敗北」していると言えるのではないか。


このような現在の「敗北」を知っている我々が10年前の世界を見た時、いったい何を感じるのだろうか。それは果てしない徒労感かもしれない。あるいは果てしない絶望かもしれない。しかしそれでも、未来に希望を託すのかもしれない。太平洋戦争を生き延びた我々の先達が、敗北を抱きしめて廃墟の中から一歩、また一歩と踏み出したように。 

会議設計の特徴

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会議開始日は2011年3月12日である。史実ではこの日にアラブ連盟が緊急外相会議を開催、リビア上空への飛行禁止空域設定を支持する決議案を協議、対リビア介入への重要な布石となった。しかしその一方、11日のアフリカ連合平和安全保障委員会はリビアへの外国の武力介入を拒否する立場を表明。また、12日時点ではアメリカは自国の立場を明確にしていなかった。さらに付け加えれば、11日に日本で東日本大震災が発生、アメリカは同盟国救援のためトモダチ作戦を発動、原子力空母「ロナルド・レーガン」を含む最大2万4000人の部隊を派遣。重ねてアフガニスタンやイラクにも部隊は展開中であり、3つの戦線を抱えた上でリビア情勢に向き合う苦しい立場に置かれていた。対するリビア・カダフィ政権は13日には中部の石油拠点を制圧、強固な空軍力を背景として反体制派の拠点である北東部ベンガジに向けて進撃を継続している。


本会議はクライシス会議である。そのため常に情勢が変化し、参加者は情報が錯綜する予測困難な状況に放り込まれることになる(フロントも予測が困難である)。このような中でリビア内戦と虐殺という危機に向き合い、決断を下していただく。強い精神と確かな知識、決断力が求められる。

議題理解

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あのアラブの春は何だったのか。あのリビア内戦は何だったのか。安保理決議1973を根拠とするリビアへの介入は本当に必要だったのか。他に手段はなかったのか。2011年当時、私は小学6年生だった。東日本大震災と並んで報道されるリビア情勢を何もわからないながら熱心に見たことを覚えている。「すごいことが始まった!」。3月19日、米軍によるリビア軍事施設へのミサイル攻撃が開始されたとのニュースに何か世界正義のようなものを感じた。「国連や米国はリビアで圧政に苦しむ人々を見捨てたりしないのか」と、単純だがその時は何か感動のようなものを覚えたものである。しかし後から調べてみるとことはそう単純ではないことに気づいた。「保護する責任(R2P)」はそもそも法的拘束力をもつ国際規範として定着しておらず、過去にはそれが発動されるべきだった2003年のダルフール紛争における民間人虐殺の際に安保理は有効な対応を取ろうとすらしなかったこと。リビア内戦に関して安保理決議1973採択の際もロシア、中国、ブラジル、インド、ドイツが武力行使の形態が不明瞭で拡大解釈が可能であること、武力行使が問題解決どころか逆効果になるとの懸念を表明して棄権していたこと。賛成票を投じた理事国の中にもR2Pに対する懸念があったことなどを知った。要するに武力行使を容認した決議1973の背後にあったのは世界正義や安保理の確固たる決意などではなく、薄氷の合意でしかなかったのだ。決議案のスポンサーであるレバノンの代表ですらこんな発言をしていた。「至極当然ながら、戦争と暴力の残虐行為を経験したことのあるレバノンは、世界のどこであろうと武力行使や戦争を絶対に支持しないし、兄弟国であるリビアではなおのこと支持しない。したがってレバノンが望むのは、本日採択された決議(1973)が抑止効果を持つこと、同決議によって自国民に対するリビア政府のあらゆる暴力行為が確実に止み、そして武力行使が回避されることである」と。

結果として安保理決議1973の下に開始された米国・NATOの空爆に乗じて反政府勢力がカダフィ政権を打倒したとき、R2Pが抱える根本的なジレンマが露見してしまった。「国家が虐殺や戦争犯罪、民族浄化などを行っている状況において、国際社会が体制転換を押し付けることなく民間人を保護するという責任を果たすことができるだろうか」というジレンマだ。リビアへのNATOなどによる攻撃の拡大と長期化に対して疑義が呈される中、2011年5月10日に安保理で開催された「武力紛争における文民保護」をテーマとする討議において、BRICS諸国を中心にR2Pが体制転換や干渉の名目になっているとした強い懸念が表明されている。この国際社会に広がったR2Pへの不信感がシリア内戦への国連・安保理の対応を麻痺させる結果となってしまった。まさしく安保露決議1973は国連の在り方とR2Pの姿を大きく変化させた。この決議はある意味でR2Pを殺してしまったのかもしれない。しかし、それでも私はR2Pが好きだ。2001年に介入と国家主権に関する国際委員会が『保護する責任』というレポートを発表した瞬間に全ては動き始めた。冷戦終結後のルワンダで、ボスニアで、コソヴォで、ソマリアで世界は昨日までの家族が、友人が殺しあう地獄を見てきた。このレポートにこめられていたのはそんな地獄を二度とこの地球上に出現させないための願いだったのだと思う。

私は皆さんに保護する責任に向き合ってほしい。様々な国の国益と国際益、国家安全保障と人間の安全保障、国家主権尊重と止むを得ない介入・・・、保護する責任はまるで国際政治の精緻だ。リビア内戦への対応という舞台で、保護する責任というレンズを通して世界を、国連を、時代を覗いてみてほしい。それを通してしか見えないものがきっとある。 

論点解説

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クライシス会議のため、通常の模擬国連会議のような論点を設けることができない。が、議場において考える必要があると思われるものは以下の通りである。

 

【論点1】軍事介入以外のオプションの検討

史実では、決議1973に基づいてアメリカ・フランス・イギリスを中心とした多国籍軍によるリビア空爆が実施された。保護する責任を根拠とした軍事介入を必須とするほどリビアの状況は切迫していたといえるのだろうか。軍事的強制措置以外の考えうる平和的な解決方法はなかったのか、などの観点を踏まえて議論していただく。

 

【論点2】保護する責任の副作用の評価

保護する責任を根拠とした介入の目的は、あくまでも「民間人の保護」といった人道的なものであるが、結果的に政権転覆を誘発してしまう可能性を内包している。現にNATOによるリビア空爆は、カダフィ政権崩壊とリビア政府の機能低下を生み出してしまった点においてしばし問題視されている。保護する責任に基づく介入の副作用の問題を検討していただく。

 

【論点3】具体的な介入内容決定    

論点1・論点2の議論などを踏まえ、リビアへの軍事介入を行うのであれば、どの程度の規模で介入を行うべきなのか。または、軍事介入以外のオプションを取るのであるならば、具体的にどのような措置を取るのか。今会議での結論として決議に盛り込む内容を具体的に議論していただく。

 

*アウトオブアジェンダは存在しない。必要と思われることを自由闊達に論じていただければ問題ない。

国割

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Bosnia Herzegovina

Brazil

China※

Colombia

France※★◎

Gabon

Germany

India

Lebanon◎

Nigeria

Portugal

Russian Federation※

South Africa

United Kingdom※★◎

United States※★


※はトリデリを推奨する。その他は完全ペアデリ。ペアデリ・トリデリで組む相手が見つからない場合はフロントに相談していただきたい。

★は史実の軍事介入で主力となった国。

◎は史実の安保理決議1973共同提案国。 

参加者の方へのメッセージ

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新メンから神メンまでの全世代を歓迎致します。参加者の方には、とにかく「考える」ことを厭わないでいただきたいです。今回の議題は情報を集めることももちろん大切ですが、それ以上に複数ある選択肢の中からどれが一番好ましいのだろうか、という問題を根拠に基づいて考え、判断することが求められます。さらには、我々がいま生きている時代は一体どのように出来上がって、これからどのような時代になるのだろうかいう点にも目を向けてみると面白いでしょう。また、普段の模擬国連に物足りなさを感じている方にも是非参加していただきたいです。普段味わうことのできない緊張感と衝撃を提供致します。


フロント一同、議場でお待ちしています。