TRIPs協定の発展

会議設定

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議題:TRIPS協定の発展
 

議場:WTOグリーンルーム会合 


使用言語:日本語


設定日時:2008年6月19日から7月20日(閣僚会合の前日まで) 


募集人数:14~35人 

フロント

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会議監督:
中西巧実(大阪大学・3年・神戸研究会・神メン)


議長:
山上陽(横浜国立大学・3年・日吉研究会・老メン)


秘書官:
榎本稜(同志社大学・4年・京都研究会・神メン)

花田緑(神戸大学・4年・神戸研究会・神メン)

田口蒼依(慶応義塾大学・2年・日吉研究会・旧メン)

会議テーマ

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「再構築」

 

これだけ聞いても意味が分からないと思いますので、全日本大会で会議を作成させていただくにあたって、私なりの模擬国連の現状認識と問題意識、そして今会議の取り組みについて簡単に説明させていただきます。

 

まずは、会議監督の個人的な模擬国連の現状認識について触れたいと思います。日本における模擬国連は、当初は国際社会でどのような問題が話し合われてるのか、またその解決の難しさはどこにあるのかを学ぶ要素が強いものでした。近年、紛争などの議題を多く取り入れるようになるにつれ、自国益の最大化を目的とした交渉ゲームの性質が強いものへと発展しました。その過程において、議場外の情勢の動きを考慮したクライシス会議や、特定の力をつけることを意識した進め方、会議サポートに焦点を当てた会議など、様々な会議が作成されてきました。

 

つまり、模擬国連は発散期にあったと言えます。その時期に「いい会議とは何か」「良いプレーヤーとはどのようなものか」といった価値観が多様化しました。

 

その中で、私個人の経験では模擬国連が「何でもありの言ったもの勝ち状態」に陥ってしまうことも少なくありませんでした。それが繰り返される中で「そもそもそれは本質的に模擬国連と呼べるのか?」という問いを何度も耳にしました。

 

私は、以上のような模擬国連の多様化は、望ましいものだと思いません。そこで、無秩序に発散している模擬国連のあり方を一度整理して収束に向かわせ、また新たに健全な発散を促したいと考えました。その第一歩として今回の会議では会議監督である私も含めて、現状では全体像や論理的な繋がりは十分検討されていないが界隈全体に浸透している行動や価値観などをもう一度再検討し、全体像を描いて総論的に模擬国連のとらえ方を再定義したいと思っています。

 

それを私一人で行い、結果を皆様に教えるという形ではなく、皆様の認識と価値観、それに基づく行動とフロントの考えをぶつけながら議論することで「模擬国連をどのようにとらえるか」それに基づき、「良い模擬国連とはどのようなものか」「根本にあたる要素は何なのか」を再定義して全体像を整理することによって模擬国連を再構築したいです。

 

 

「模擬国連ってどんなものだろう、良い模擬国連って何だろう」について考えるにあたって以下の3点があると考えています。

 

①自分の価値判断軸の認識

②模擬国連という対象の認識と構造化

③問題意識を発見し解決する

 

この3つの流れのうちの①、②を今回の会議で行いたいと考えています。

今の模擬国連における多様な視座を改めて認識し、自分なりに会議準備に取り入れ、実行してみてください。それを持った状態で初めて、フロントやほかの参加者と議論し、模擬国連を再定義し、根本を探るという行為が成立します。

 

必ずしも価値観や会議行動が崇高で複雑である必要はありません。自分の考えを持ち、会議行動として体現できるというスタートラインに全員が立てるようにサポートを行います。このように、自分の考えや会議準備、行動などの各要素を再定義し一貫性と連動性を持った模擬国連を構築することが個人の行動を確認し、発展させるためにも必要になってきます。

 

それを実行することで「レベルの高い議論」だとか「うまい駆け引き」、「良いリサーチ」が何なのかを考えることができます。サッカーのキックとキックボクシングのキックは二つともいいキックではあるものの全く違います。サッカーとはどんなスポーツなのかという認識が違うだけでも良いパスと悪いパスは全く変わります。それほど競技に対する認識は発展の過程において重要なのです。

 

まずは自分の取り組む模擬国連とはどんなものなのか、それに基づいて模擬国連における「良い議論」のようなものを参加者の皆様と一緒に見つけれたら幸いです。 

会議設計の特徴

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1. 交渉範囲の自由度
のちの議題解説でも触れますが、今回はTRIPS協定に関するグリーンルーム会合という議場は決まっていますが、交渉の対象や論点をフロントが決めることはありません。数多くの問題が起こっている交渉に関して、何を、どういった順番で、どの程度の深さで交渉するのか、又はしないのかは、全てデリの皆様に決めていただきます。普通の模擬国連での、論点ごとに交渉を行って、決議を作成するという過程も強制しません。決議の性質も、出すか出さないかも自由です。

またコンセプトとも関連しますが、様々なレイヤーの問題と問題に対する評価軸が複雑に絡み合っている状況を、デリの皆様にはそれぞれ異なる各国の国益に基づきながら、各々の観点をぶつけあいながらも、議場全体で取り組むものとして整理するという体験ができるようになっています。そのため、議場が取り組むべき課題や交渉の進めかたさえも統一されてない時系列を切り取っています。



2. 参加者へのアプローチ方法

今回の会議に取り組むうえでの全体の流れは
 

①フロントによる問題提起と改善策の提案

②参加者が会議を通して自分なりに答えを出す

③今回の会議と関連付けながら模擬国連の問題点を議論

 

という形になっています。会議を通して正解を学ぶという構図ではなく、フロントと参加者の皆様全員がそれぞれの視点からそれを模索するという形になります。

 

勿論会議準備やレビューなどの流れで、フロントの知識や経験は共有して参加者の方が会議の中でより充実感を感じられるようにサポートはしますが、それはフロントの考えであって絶対的に正しいかどうかは誰にもわかりません。むしろケースバイケースで考えるしかないものもたくさんあるでしょう。しかし、何が特殊な事例で何が一般的な原則なのか、どのように整理できるのかを考えると別の事例に遭遇したときに目の前の問題を考えるフレームがあるという点でより鮮明に会議について考えを持てるでしょう。

 

 

3. アワード評価

アワード評価に関しても同じように考えています。同じファクトを拾ってもそれぞれの重視度や解釈のちがいから論理的に導かれるものが全く同じではないでしょう。フロントの主観的な評価であるという点を排除することは不可能ですが、フロントの思うアメリカの国益や適切な戦術ではないからアワードは渡さないということはありません。「個人がどれだけ自分の行為を構造化し説明できており、それを実行したかという論理的な繋がり」を評価してアワードを決めます。勿論、国益や決議なんて関係ないというつもりはありません。しかし、結果ではなく国益と達成するための戦術を導く過程を重視したうえで、会議中の再現度を評価対象とします。

 

主な特徴として以上の二点を上げましたが、この会議は知識や方法論をフロントに正解を教えてもらって勉強する会議ではありません。それはあくまでフロントの提案であり、各人の認識に準ずるインプットと、それに基づくアウトプットをしたうえで、さらにそれらをどのように評価できるかという「問い続けること、答え続けること」を重視したアワード評価になっています。 

議題解説

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今回の議題である「TRIPS協定の発展」について、詳細を説明します。

 

グリーンルーム会合は、簡単に言うと、世界貿易機構(WTO)で日常的に行われている非公式の閣僚会合で、今回は知的財産保護についての交渉を行うことを目的にした非公式会合です。知的財産に関してはWTOの他にもWIPOやWHOなど様々な場所で話し合われています。しかし時代が進むにつれて知的財産保護と他の条約や国際社会の使命との抵触が指摘されたことや、TRIPS協定がそもそも最低限の保護を示したものに過ぎないことなどから、徐々にWTOでの交渉が鈍化していきます。

 

公衆衛生に関する交渉は2005年のドーハ宣言等で成果を残しましたが、特に地理的表示に関する交渉とTRIPS/CBDというTRIPS協定と生物多様性条約(CBD)の関係性に関する交渉は各国の意見対立が激しく、TRIPS理事会の未解決問題として残されてしまいました。それに対して数個の多国間グループが、数字や品目の詳細はいったん後回しにして、抽象的な合意を結ぼうというモダリティ案の作成に着手し、いくつかのグループによって決議案も提出されました。


モダリティ案の交渉は一見順調にも見えますが、一つの交渉の土台に基づいた合意ができているわけでもなければ、案の作り方についてさえも対立が残り、複数個の案が残存しているのが2008年の現状です。さらにそれと並行して、ヨーロッパ諸国などからTIRPS協定のエンフォースメント(執行制度の強化)を主張した提案が出されます。このように、とても広い論点が、複数個議場に存在します。

 

このような状況下で各国大使の皆様には各グループから提出された提案文書を基に、どれを土台としてどんな交渉をするのか、そして文書を作成する場合は、その内容の検討についてもおこなって頂きます。数多く抱えている問題を整理し、どれから手を付けるかもこの議場で決められるので、考慮しなければならない論点自体は多くなります。

論点解説

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この会議ではフロントから論点を提示することはございません。WTOは交渉の範囲がかなり広範囲に及びます。なので普段は交渉の対象ごとに委員会を分けて主に協定の実施について議論しています。条約の改正などの交渉は最高意思決定機関である閣僚会議において行われます。閣僚会議の開催期間のみでドーハラウンドのすべての交渉分野について詳細に交渉することは不可能なので、非公式会合などで交渉のロードマップの作製や各論点について合意の積み重ねが行われます。これらの非公式会合のうち、迫る閣僚会合での合意に向けてWTOの事務局長などを交えて各国の首脳が行う会合をグリーンルーム会合と呼びます。

 

このことから想像がつくように、グリーンルーム会合自体に常設の議題が存在するわけではありません。しかし本当に何でもありというわけにもいかないので、今回はそれ以前までの議論を踏まえてある程度交渉の範囲を指定します。様々なレイヤーの問題点が存在し、会議設計はそれらを論点化して交渉の枠組みを作る作業もデリにゆだねています。そのため今回はWTOの直面する問題の中でグリーンルーム会合とその後の閣僚会合で扱われうる問題の紹介をします。

 

1「ワイン及びスピリッツの地理的表示(GI)」

2001年にカタールのドーハで採択されたドーハ宣言の第18条では地理的表示について触れられています。地理的表示に関する議論は主に二つに分けることができ、そのうちの一つがこのワインとスピリッツに関する交渉である「ぶどう酒(ワイン)及び蒸留酒(スピリッツ) の地理的表示(Geographical Indications : GI)の通報及び登録に関する多国間の制度に関する交渉」です。ドーハ宣言第18パラグラフの前段において、当該制度の設立に関して交渉する(negotiate)との文言が用いられており、多国間通報登録制度はWTOの今次ラウンドの交渉項目であること自体は決定されていることがらです。

 

2「地理的表示(GI)の多国間登録制度の設立と適用対象の拡大」

(a) 多国間登録制度の設立

自国商品の地理的表示に関してWTOが管理できるような制度を作ろうという動きがあります。この制度をどのようなものにするのかに関して大きく二つの考え方が存在します。一つは日米加チリなどが共同提案した安価で運用でき、事務負担が軽く、登録に関して各国に法的拘束力のないデータベースのようなものを作ろうという共同提案です。二つ目はEC諸国が提案した登録にあたって多国間の異議申し立て制度や紛争解決手続きを含み、産品の登録に法的拘束力を認める多国間制度を創設する提案です。この2つの案に関する議論はドーハラウンドの交渉事項として合意されている。

 

(b)追加的保護の対象産品の拡大

一般の地理的表示に関しては「公衆を誤認させる」場合に限って商品の日原産地の表示を防止することが規定されている。先述したワイン・スピリッツに関しては誤認混同を引き起こすかどうかによらず、日原産地の地名を表示することが禁止されている。これを追加保護と呼びます。

 

このような追加保護の対象をワイン・スピリット以外に拡大するか否かをこの論点で扱うことになります。

主にEC、スイス、インドなどとこれに消極的な新大陸国との間で議論が行われています。これまではこの論点について明確にTRIPS理事会にマンデートはありませんでしたが第4回閣僚会議で採択された閣僚宣言において明確に超す方対象としてのマンデートが示されました。

 

3「TRIPS協定と生物多様性条約の関係(TRIPS/CBD)

TRIPS協定第27条3項bは特許の対象としなくてよいものを限定列挙する規定の一つですが、バイオ関連に関しては何を特許の対象としなくてよいのかが明確ではありません。バイオテクノロジーの発展や意見の相違もあり、本規定は1999年から見直しをはかられています。生物多様性条約(以下CBD)は第1条にて「生物の多様性の保全」、「その構成要素の持続可能な利用」、「遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な分配」を実現することを目的とすることを掲げています。3つ目の利益の配分については条約レベルでの規定はいまだに行われていません。

 

このような現状から、途上国はバイオテクノロジーに関連してTRIPS協定の見直しにあたり特許制度に目をつけました。特許出願時に遺伝資源等の出所開示を義務化するというものです。この提案は遺伝資源を多く保有するブラジル、インド、タイ、ペルーといった途上国を中心に多くの国の指示を得ていますが、先進諸国とは対立しています。

 

4「エンフォースメント提案」

エンフォースメントとは日本語に直すと「権利行使」です。何に対しての権利行使なのかというと、知的財産権の侵害に対してのっ権利行使です。EU諸国は民事、刑事などの手続きが順守すべきスタンダードを規定したエンフォースメント提案を行ってきました。2006年の理事会通常会合においてはEU日米スイスなどが競争提案国になり、TRIPS協定のエンフォースメントに係る条項のより効率的な実施のための方法に関する議論を行うこと等を求める共同声明を提出しました。豪州カナダ島は好意的な反応を示したものの、ブラジル、インドなどの開発途上国は各国に裁量がゆだねられている部分に関して、マンデートを超えて議論することはできない等の理由で議題として取り上げること自体にも反対しました。

 

 

5「TRIPS協定のリンク論」

WTO交渉におけるTRIPSをめぐる交渉には様々な論点がありますが、いずれの論点も議論が収束しておらず意見の隔たりも大きいです。GI拡大や遺伝資源御出所開示にそれぞれ反対している国からすれば議論が進まなくても致命的ではないのかもしれません。

 

しかし、それぞれの議論の推進派は議論が発散し続けるだけでは話になりません。そこで互いの議論の推進派はそれぞれの議論は未解決問題であり、互いにリンクしているため同時に交渉すべき頭いう主張を行いました。この交渉を行うことにより、互いの議論の推進は別の議論の推進派であるものの、もう一方の議論の推進派ではない国家の取り込みを行うことを目指しています。各国家によって話し合いたい論点が違うので、どのような論点を1つのパッケージとするかは非常に大切です。

国割

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 アプライ人数によって調整の結果一部または全部の国がペアデリになります。フロントがマッチングと立会いをやるのでシングルライダーで大丈夫です。すべての国が当日割り当てられるとは限りません 

 

[欧州]

イタリア
フランス
スペイン
ドイツ
ノルウェー

 

[アジア・アフリカ・オセアニア]

中国
インド
インドネシア
タイ
日本
オーストラリア
南アフリカ

 

[アメリカ大陸]

アメリカ合衆国
カナダ
チリ
ペルー
エクアドル
ブラジル

参加者の方へのメッセージ

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皆さまこんにちは。会議監督を務めさせていただきます中西巧実と申します。今回は全日本大会の会議監督を任せていただいて本当にありがとうございます。大会事務局の方々や日本模擬国連の会員の皆さま、活動に理解を示して支えてくださる保護者の方々や協賛団体の皆様、本当は直接申し上げたいのですが、失礼ながらこのような形で感謝を伝えさせていただきます。

 

コンセプトや議題の説明をみて、少しでも興味を持っていただけたでしょうか。もし興味をお持ちいただけましたら、参加のご検討をお願いします。どんな人に来てほしいという思いはもちろんありますが、実力や価値観に関わらず来てほしくない人はいないですし、いろんな人に来てほしいので私の知り合いじゃなくても普段あまり話さなくても全く問題はありません。暖かく迎え入れますので、奮ってご応募ください。